【レビュー】『太陽を曳く馬』村薫
学生編集委員です。
テーマは平成!ということで、私の敬愛する作家のこの一冊をご紹介いたします。
作者の村薫さんといえば、直木賞受賞作『マークスの山』で思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
男のロマンが好きな方は『李欧』を、もっと硬派な方はグリコ・森永事件に着想を得たと言われる『レディー・ジョーカー』を、それぞれ一番に挙げるかもしれません。
村薫さんの作風を一口にエンターテインメントと呼んでしまうには言葉が足りない!
常日頃そう思っているわたしですが、すでに挙げた作品はどれも、刑事やアウトローを描いたハードボイルド・ミステリー・冒険ものといったようなジャンル分けがなされています。
しかし、この『太陽を曳く馬』を完結編とし、『晴子情歌』『新リア王』と刊行されてきた福澤一族を巡る三部作は、はたして今まで村薫さんの作品群に与えられてきたジャンルに当てはまるのか?
誰もが疑問に思わざるを得ないほど、『太陽を曳く馬』を含めた三部作は、時代の流れを五感で受け止めようと試みる、壮大な物語です。具体的な言葉で語るには力量不足ですが、とにかく、壮大です。村先生独特の文章の濃密さと本の分厚さもそれに一枚噛んでいるかもしれません。
【あらすじ】
2005年・東京。刑事の合田雄一郎は、刑事告訴を受けた永劫寺の事案を担当することになる。しかしその重要参考人は、数年前、雄一郎が担当した死刑囚・福澤秋道の父親である、福澤彰之であった…。
現代美術、東京ポップ、世代へのギャップ、あるいは21世紀の思考回路への困難。9・11の数ヵ月後、雄一郎は過去と現在の事件を通して一体何を見るのだろうか?
今作の主人公・合田雄一郎は、村ファンにはおなじみ『マークスの山』『照柿』『レディ・ジョーカー』の合田刑事三部作でも主人公だった人気キャラクターです。
また、今回主人公の目を通して語られる重要人物・福澤彰之は、この三部作の一作目にあたる『晴子情歌』の主人公であり、二作目の『新リア王』でも「もうひとりの主人公」として物語を支えています。
三作を通して向き合われているのは社会であり、人間関係であり、家族であり、身体感覚の問題であり、人の心であり……。
風景や心、体の感覚まであますところなく描こうとする村薫さんの文章が、今まで以上に生きています。
平成やそれに近しい生まれのわたしたちは、目の前の時代を当たり前に受け止めていますが、違う価値観の人間としてこの世の中を見てみたとしたら?
たとえば「若者世代へのジェネレーションギャップ」と聞くとまるで他人事だとしても、もしかしたらその「ギャップ」は、わたしたちがもっと昔に感じていた「違和感」と同じものかもしれません。
主人公の視線を通した「平成」は、居心地の悪そうな、秩序のない、言葉の通じない不思議な世界です。
時代批判とも言い切れない細微な描写は、村薫さん独特のリアリティで迫ってきます。濃密な言葉の世界に溺れたいときに読みふけりたい作品です。
テーマは平成!ということで、私の敬愛する作家のこの一冊をご紹介いたします。
太陽を曳く馬〈上〉 (2009/07) 高村 薫 商品詳細を見る |
作者の村薫さんといえば、直木賞受賞作『マークスの山』で思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
男のロマンが好きな方は『李欧』を、もっと硬派な方はグリコ・森永事件に着想を得たと言われる『レディー・ジョーカー』を、それぞれ一番に挙げるかもしれません。
村薫さんの作風を一口にエンターテインメントと呼んでしまうには言葉が足りない!
常日頃そう思っているわたしですが、すでに挙げた作品はどれも、刑事やアウトローを描いたハードボイルド・ミステリー・冒険ものといったようなジャンル分けがなされています。
しかし、この『太陽を曳く馬』を完結編とし、『晴子情歌』『新リア王』と刊行されてきた福澤一族を巡る三部作は、はたして今まで村薫さんの作品群に与えられてきたジャンルに当てはまるのか?
誰もが疑問に思わざるを得ないほど、『太陽を曳く馬』を含めた三部作は、時代の流れを五感で受け止めようと試みる、壮大な物語です。具体的な言葉で語るには力量不足ですが、とにかく、壮大です。村先生独特の文章の濃密さと本の分厚さもそれに一枚噛んでいるかもしれません。
【あらすじ】
2005年・東京。刑事の合田雄一郎は、刑事告訴を受けた永劫寺の事案を担当することになる。しかしその重要参考人は、数年前、雄一郎が担当した死刑囚・福澤秋道の父親である、福澤彰之であった…。
現代美術、東京ポップ、世代へのギャップ、あるいは21世紀の思考回路への困難。9・11の数ヵ月後、雄一郎は過去と現在の事件を通して一体何を見るのだろうか?
今作の主人公・合田雄一郎は、村ファンにはおなじみ『マークスの山』『照柿』『レディ・ジョーカー』の合田刑事三部作でも主人公だった人気キャラクターです。
また、今回主人公の目を通して語られる重要人物・福澤彰之は、この三部作の一作目にあたる『晴子情歌』の主人公であり、二作目の『新リア王』でも「もうひとりの主人公」として物語を支えています。
三作を通して向き合われているのは社会であり、人間関係であり、家族であり、身体感覚の問題であり、人の心であり……。
風景や心、体の感覚まであますところなく描こうとする村薫さんの文章が、今まで以上に生きています。
平成やそれに近しい生まれのわたしたちは、目の前の時代を当たり前に受け止めていますが、違う価値観の人間としてこの世の中を見てみたとしたら?
たとえば「若者世代へのジェネレーションギャップ」と聞くとまるで他人事だとしても、もしかしたらその「ギャップ」は、わたしたちがもっと昔に感じていた「違和感」と同じものかもしれません。
主人公の視線を通した「平成」は、居心地の悪そうな、秩序のない、言葉の通じない不思議な世界です。
時代批判とも言い切れない細微な描写は、村薫さん独特のリアリティで迫ってきます。濃密な言葉の世界に溺れたいときに読みふけりたい作品です。