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【レビュー】 『キケン』 有川浩


 有川浩さんといえば、「本の雑誌」2006年上半期ベスト1に選ばれた『図書館戦争』や最近映画化もされ注目を集めた『阪急電車』など若い世代を中心に支持を得ている作家の一人です。今回紹介する『キケン』は第2回ブクログ大賞を受賞している作品であり、有川さんの数ある作品の中でも特にアクの強い作品であると思います。
「ほぼ九十九%男子校」な成南電気工科大学に入学した常識人、元山と情報通、池谷。そんな二人が出会ったのは【機械制御研究部】――略して【機研】と呼ばれ周囲に畏れられているサークルの部長「成南のユナ・ボマー上野直也」と副部長「大魔神・大神宏明」。上級生二人に誘われるまま【機研】に身を置くことになった元山と池谷はおよそ人間の所業とは思えないような彼らの活動に巻き込まれながらも仲間と共にたくましく、大学生活を謳歌していく。部長上野、副部長大神体制の【機研】黄金期の物語。

 この作品の最大の魅力は、登場人物たちの個性の強さと文体のスピード感にあると思います。「成南のユナ・ボマー上野直也」、「大魔神・大神宏明」といった渾名からもわかるようにこの作品の登場人物たちはとにかく個性的。一見普通な男子大学生に思える元山と池谷に至っても、うちに秘められた個性の強さはなかなかなものです。そんな彼らの魅力を充分に伝えてくれるのは、会話やストーリー展開など文体のスピード感。ちょっと早いかもという印象を受けるスピードの文体によって、まるで自分がその場にいるかのような臨場感と登場人物たちの全力度合が伝わってきます。そして、登場人物たちの会話のテンポは、お笑い芸人の漫才を見ているようで思わずくすりと笑ってしまうくらいに心地よいものです。

 また、この作品は内容からして登場人物たちと同年代の「若者向け」という印象を持たれる人が多いかもしれません。しかし、私はあえてこの作品を大学を卒業して何年間か経った、「大人」に読んでもらいたいと思います。もちろん、同年代である私たち大学生が読んでも楽しめる内容の作品ではあります。しかし、この作品を真に理解し、楽しめるのは大学生時代を懐古することができる年齢の人たちだと思うのです。

 作中に以下のような描写があります。

  全力無意味、全力無謀、全力本気。
  ――一体あんな時代を人生の中でどれほど過ごせるだろう?

 この言葉の意味や重みは、青春の真っただ中にいる私たちにはきっとまだ把握しきれないのでしょう。私も大学を卒業して何年か経った後、この言葉が身に染みるだろう時期にもう一度、読み返してみたいと思います。
全力で遊んで、全力で楽しんだ、きらきらと輝いた青春の日々。みなさんも『キケン』を通してそんな大学生の青春に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


キケンキケン
(2010/01/21)
有川 浩

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【レビュー】 『友情』 武者小路実篤

 
 脚本家の野島と新進作家の大宮は厚い友情で結ばれ、日々お互いに高めあっている。野島は、大宮のいとこの友人の杉子に執心するが、杉子は大宮のことを密かに思う。大宮は杉子の気持ちに気づくも、野島の幸せを祈り、杉子の気持ちを遠ざけるためにパリへと去る。それでも大宮を思う杉子は手紙を送り、強い思いを伝えると、大宮は自分のありのままの気持ちを顕にし、野島にもそれを大きく暴露する。

 野島は二十三歳、大宮は二十六歳、杉子は十六歳である。直接の学生生活を思わせるところはないが、日々勉強したり、仲間うちで討論したり、また時には思い切り遊んだりと、学生の時期にある、独特な自由な時間を過ごす彼らの姿が爽やかに描かれている。主人公である野島はひたすらに杉子のことを思う。その姿は実に真摯であり、またときに滑稽であった。 

 下篇では友情と恋愛の間で葛藤する大宮の様子が、杉子との往復書簡によって描かれている。杉子の気持ちは完全に大宮に向けられていて、それはどこか野島が杉子に思いを寄せる姿と重なって見えた。杉子に愛をまっすぐに伝えられた大宮は、野島の幸せを願い、杉子に野島を愛してくれるように懇願するが、杉子は大宮への思いをさらに手紙にするので、次第に大宮も杉子に対する思いをこぼしていき、ついには杉子への愛を吐露する。大宮の、野島との友情を思い自分の気持ちに見てみぬふりをする姿から、野島を信頼しているからこその、杉子への思いを行き過ぎるほど野島に見せる姿への移り変わりが、大変印象的でこの作品の大きな柱となっているといえるだろう。そして野島はその告白を受けて、孤独の獅子となり、大宮に仕事の上で決闘しようと誓うのである。失恋をばねに大宮に立ち向かい、更なる発展と成長をしようとする野島の姿はやはり真摯でまっすぐで痛快な印象を受ける。

 青春期は様々な可能性が広がる時期であり、またそこでの挫折が新たな可能性を生みだし得る。むしろ逆境のときに、そこから生み出されるものこそ強く重要なものであるように思える。可能性が一番に広がる青春期ではそれに相応して悩み、葛藤する場面に多く直面するが、それがここでは友情と恋愛であって、登場人物たちはそれにまっすぐに一生懸命にぶつかっていく。大宮が野島に言った言葉に、このようなものがある。

「ともかく恋は馬鹿にしないがいい。人間に恋と云う特別のものが与えられている以上、それを馬鹿にする権利は我々にはない。それはどうしても駄目な時は仕方がない。しかし駄目になる処までは進むべきだ。」

 この言葉を受けて野島は一途に、駄目になるまで杉子を思う。ここに青春期の若く、祈りを含んだ原動力を見た。あくまで前向きに進んでいく主人公には、青春時代の溌剌とした潔さがあり、読んでいて大変心地よい。読み終わったあとには自分自身も何かに情熱を傾けて一生懸命になりたくなるような、熱く、正直な気持ちを導き出してくれる青春小説である。


友情 (新潮文庫)友情 (新潮文庫)
(1947/12)
武者小路 実篤

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【レビュー】 『流れ星が消えないうちに』 橋本紡


 本作の主人公である奈緒子は不慮の事故で恋人の加地を亡くし、今はその親友であり加地と奈緒子の縁を取り結んだ巧と付き合っている。加地の死から一年が経とうとしている中、ある日奈緒子のもとに父親がやってくる。「家出してきた」と言って。父親が来たことによる影響はほんの小さなものだったが、それが波紋を広げるように、加地の喪失によって停滞していた彼女達の内面を緩やかに変化させていく。奈緒子は父親が来たことで加地の死で憂鬱とした生活から、徐々に穏やかな生活を取り戻す。繊細に描かれていく彼女の感情はそれに癒され、時に加地の最期にまとわりつく疑惑に迷いながらもやがて前を向き始める。そんな彼女を見て巧も、加地と奈緒子に対する負い目を払拭させていく。

 奈緒子と巧の一人称を交互に挟んで描かれる本作だが、奈緒子の回想には加地と彼との思い出しか描かれない一方、巧の回想する過去には加地と先輩の山崎、同級生の春日の三人の姿がある。加地と奈緒子の恋を応援していた巧の過去が、二人の外側に存在していることは当然なのだがそれとは別に、山崎との思い出という巧だけの独立した過去が彼の変化に影響してくるというのが面白い。奈緒子が一人の過去に没頭しているのとは対照的に複数人との過去を回想する巧の姿は、そのまま男女の違いを表しているようである。

 親しい人が死んだ時、遺された人の心の中には何かが残る。それは故人と親しければ親しいほど強く深いものとなり、遺された人のその後に影響を与えていく。そして何より、人は、人が亡くなった時の感情をそのまま持ってはいられない。どんなに悲しんでいても、その喪失感は風化して、別の何かに変わっていく。それは死に限らず、時間による変化を人は止められない。その変化を肯定するか否定するかは人それぞれだが、この作品で橋本紡が描くものは、その答えの内の一つだ。死は停止することだが、生は動き続けていくことだ。

「動くことによって見えてくるものがあるはずなんだ。」

 この作品に何度も出てくるこのフレーズの通り、変化し続ける生の中で見えていくものがきっとある。苦しいときやかなしいとき、立ち止まりたいときに、この本はもう一度動き出すきっかけを作ってくれるだろう。


流れ星が消えないうちに (新潮文庫)流れ星が消えないうちに (新潮文庫)
(2008/06/30)
橋本 紡

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【レビュー】 『伊豆の踊子』 川端康成


「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで私を追って来た――」
二十歳、旧制第一高等学校の学生である「私」は、自分の性質が孤児根性のために歪んでいるという意識に苛まれ、逃れるように訪ね来た伊豆で出会った年若い踊子に好意を抱き、その巡業芸人の一団と目的地である下田までの旅路をともにする。

 当初私は髪の豊かさと大人びた化粧のために踊子が十七八の娘盛りであると思い込み、そのために酒宴に呼ばれた踊子の身を案じ胸を痛めもするが、湯に出た際、川むこうの湯殿から私を見付けてはしゃぐ踊子の「若桐のよう」な裸体に幼さを見て取ると、晴々しい気持ちに思わず笑いがこぼれる、というくだりがある。

「川端氏の全作品の重要な主題である『処女の主題』がここに端緒の姿をあらわす」という三島由紀夫の言及の通り、作家の早い時期の作品でありながら後の方向性を既に孕んでおり、才能の萌芽のようなものが見うけられる。

 秋の伊豆を舞台に踊子たちと交流するうち私の心はしだいに和らぎを得てゆく。帰京する汽船の中、私は頭の中が空になったような、また全てが調和したような清々しい心持でしきりに涙を流し、甘い快さを感じるのであった。

『伊豆の踊子』は自身が十九歳で実際に伊豆を旅行した経験を元手に、一九二六年(昭和元年)作者二十七歳の時書き上げられた、川端康成初期の代表作であるとともに、近代日本の青春文学作品として代表的な一品である。
 
幾度も映画化され、広く人口に膾炙したこの作品であるが、ここまで今なお多くの読者に青春の書として親しまれているのは、作品に扱われる自意識の苦しみや恋愛の問題といった、多くの人が思い悩む青春時代においてもっとも大きな比重を占める事柄が、作者の優れた筆致も相俟って、いつの時代も読者の強い共感を誘うためであろう。

 やや上った時代の作品ではあるが、平易な書き様で読みやすく、細やかでありながら限定しすぎないという描写から、自分にとって美しい踊子の姿を思い浮かべる楽しみがあった。短い話ですぐ読み切ることができるので、未読者、また川端作品に触れたことがない読者には是非一読して欲しい。


伊豆の踊子 (新潮文庫)伊豆の踊子 (新潮文庫)
(2003/05)
川端 康成

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法政文芸第8号 特集発表!

学生編集長です。

今年発行される「法政文芸」の特集企画を発表します。
会議の結果、今号の特集は……

「学生の青春小説」

に決定しました。
文学を青春や学生といった視点から捉え直すというのが今号の企画意図です。


特集タイトルに関してはまだ仮題ですが、
学生編集委員である私たちの熱い思いを読者の皆様に届けられるよう努力します。


さらに、この法政文芸ブログでは学生、もしくは18~20代半ばの主人公が出てくる青春小説を取り上げ、
その小説の書評を8号が完成するまで続けていくことになりました。

どうぞよろしくお願いします。



プロフィール

法政文芸編集委員会

Author:法政文芸編集委員会
法政大学国文学会が発行する文芸誌「法政文芸」編集委員によるブログ。編集の様子やオススメ本の紹介など、個性豊かに発信していきます。法政文芸のバックナンバー、その他のご質問はこちらまで→hosei.bungei@gmail.com

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