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【レビュー】 『流れ星が消えないうちに』 橋本紡


 本作の主人公である奈緒子は不慮の事故で恋人の加地を亡くし、今はその親友であり加地と奈緒子の縁を取り結んだ巧と付き合っている。加地の死から一年が経とうとしている中、ある日奈緒子のもとに父親がやってくる。「家出してきた」と言って。父親が来たことによる影響はほんの小さなものだったが、それが波紋を広げるように、加地の喪失によって停滞していた彼女達の内面を緩やかに変化させていく。奈緒子は父親が来たことで加地の死で憂鬱とした生活から、徐々に穏やかな生活を取り戻す。繊細に描かれていく彼女の感情はそれに癒され、時に加地の最期にまとわりつく疑惑に迷いながらもやがて前を向き始める。そんな彼女を見て巧も、加地と奈緒子に対する負い目を払拭させていく。

 奈緒子と巧の一人称を交互に挟んで描かれる本作だが、奈緒子の回想には加地と彼との思い出しか描かれない一方、巧の回想する過去には加地と先輩の山崎、同級生の春日の三人の姿がある。加地と奈緒子の恋を応援していた巧の過去が、二人の外側に存在していることは当然なのだがそれとは別に、山崎との思い出という巧だけの独立した過去が彼の変化に影響してくるというのが面白い。奈緒子が一人の過去に没頭しているのとは対照的に複数人との過去を回想する巧の姿は、そのまま男女の違いを表しているようである。

 親しい人が死んだ時、遺された人の心の中には何かが残る。それは故人と親しければ親しいほど強く深いものとなり、遺された人のその後に影響を与えていく。そして何より、人は、人が亡くなった時の感情をそのまま持ってはいられない。どんなに悲しんでいても、その喪失感は風化して、別の何かに変わっていく。それは死に限らず、時間による変化を人は止められない。その変化を肯定するか否定するかは人それぞれだが、この作品で橋本紡が描くものは、その答えの内の一つだ。死は停止することだが、生は動き続けていくことだ。

「動くことによって見えてくるものがあるはずなんだ。」

 この作品に何度も出てくるこのフレーズの通り、変化し続ける生の中で見えていくものがきっとある。苦しいときやかなしいとき、立ち止まりたいときに、この本はもう一度動き出すきっかけを作ってくれるだろう。


流れ星が消えないうちに (新潮文庫)流れ星が消えないうちに (新潮文庫)
(2008/06/30)
橋本 紡

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法政大学国文学会が発行する文芸誌「法政文芸」編集委員によるブログ。編集の様子やオススメ本の紹介など、個性豊かに発信していきます。法政文芸のバックナンバー、その他のご質問はこちらまで→hosei.bungei@gmail.com

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