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【レビュー】 『クローバー』 島本理生


 この本の主人公は、大学生の双子、冬冶と華子。客観的な視点で冷静に物事を見る、地味な理系男子冬冶と、化粧バリバリ、積極的に行動する肉食系女子華子は、外見こそ似ていますが内面は全く似ていません。

 そんな二人が作品の中でふと、そっくりな台詞を漏らしています。

「べつに今の自分に満足していないわけじゃない。だけど自分の能力や色んな面に対して自信があるかと言われれば、むしろ後ろ向きなほうだと思う」
「たぶん、私があんまり誰かを本気で好きになれないのは、自分のことを好きじゃないからだよね」


 この台詞は二人の心の中に抱えている「不安」の一部を率直に表していると、私は思います。
 
 自分に100%自信がある人間など、なかなかいません。何かしらのコンプレックス、不安、あきらめ、絶望……そのようなどうしようもない思いを抱えながら、私たちは生きています。青春期は特に、子供から大人という社会的視線のカテゴリーの移行と自身の人生の方向性の選択という特殊な変化を求められる時期であり、大人になりきれない、また、子供のままでもいられない中途半端な位置にとまどう若者たちは皆、程度の差はあれ、「自分とは何か」「自分はどうあるべきなのか」という問いに直面し、葛藤するのです。

 作中、冬冶と華子もそんな変化の時期に、いろいろな人々と関わり、影響をうけていきます。自身の欲求に積極的に動く友、どこまでもまっすぐに好意をぶつけてくる相手、どこか反発を覚えていたけどやっぱり大きな存在であった両親、それぞれの意見が交差し、ぶつかり合い、築かれていく人間関係の中で、十分に悩みながら二人は様々な思いに折り合いをつけ、自分の答えを見つけていきます。

 この作品は、あとがきで作者の島本さん自身が「青春小説でも恋愛小説でもなく、モラトリアムとその終わりの物語、というとらえ方をするのが、自分の中では一番しっくりきます」と述べているように、はっきり恋愛小説とも青春小説とも区分することはできません。ですが思ってみれば、現実でも恋愛や青春やモラトリアムはそれぞれがそれぞれの構成要素であり、切り離すことなど出来やしないのです。

「ほっ」と優しく背中を押してもらいたいそんな時、青春期を卒業した大人も現在真っ只中の若者も、この作品の伸びやかな空気感に癒されてみてはいかがでしょうか。(文・飯村)


クローバー (角川文庫)クローバー (角川文庫)
(2011/01/25)
島本 理生

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【レビュー】 『青が散る』 宮本輝


 青春とは一度だけ人生に現れる儚い季節のことである。
『青が散る』は、一九八二年に刊行された宮本輝の青春小説。すでにドラマ化もされており、当時から青春小説として根強い人気を誇っている。新設大学のテニス部員椎名燎平が大学に入学してから卒業するまでを描いた作品であり、彼をめぐる友情や恋愛、スポーツなど全ての青春の要素が詰まった作品である。

 夏子との運命的な出会いから始まり、二人の淡い恋の行方や、金子との友情、テニス部を創設し大会を目指していく姿は、まさに青春しているのであり、それぞれが一つ一つで十分に小説ととなるような魅力を持っている。ここで一つ場面を引用するが、この場面の美しさは傑出している。そしてまた同時に儚さや切なささえも滲みだしている。

 夏子はあたりをうかがい、それから笑顔を浮かべて近寄って来、両腕で遼平の顔をかかえ込んで、頬に長いこと唇をつけていた。夏子の全身を包んでいる細かな水滴が、遼平にまといついている水滴と混ざり合ってつぶれ、そこだけ液体になって濡れそぼった。


 父親を亡くした夏子を送り届けた燎平にお礼だと言ってキスをする。もう一度と冗談交じりにねだると、こんどは夏子の長いキスによって、霧雨のせいで二人にまとわりついていた細かな水滴が触れ合って一つの水滴へと変わる。ここにこそ青春の、恋の儚い一瞬が凝縮されているのであり、それをこうした二人の心理には触れず、情景描写のみで書き表そうとした作者の類まれなるセンスを感じる。

 まさに青春小説の金字塔とも言えるこの作品だが、その評価すべきは青春の「散る」までを描きったところにある。タイトルの『青が散る』とはまさに「青」春が「散る」ということなのだ。

 燎平は大学の四年間を振り返って「恥ずかしい時代」だったと言う。その「恥ずかしかった」大学生活を終え、「青春」を終えてしまった燎平はもう夏子に手を伸ばすことができなかった。また夏子の目からはもう「不思議な緑」が喪われてしまっている。燎平が夏子に恋をしていた時代は終わってしまったのだ。そしてそれぞれの登場人物もそれぞれに何かを喪ってしまっている。そうした虚しさのなかで、青春が散っていくことが確認されてしまうことで物語は閉じてしまう。

 青春とは一度だけなのだと確認させる小説。それは残酷ではあるが、その残酷さの裏には、一度しかない時代の美しさがたしかにあるのだ。(文責:伏見)


青が散る〈上〉 (文春文庫)青が散る〈上〉 (文春文庫)
(2007/05)
宮本 輝

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