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【レビュー】 『砂漠』 伊坂幸太郎


 伊坂幸太郎による五人の大学生を描いた青春小説。個性豊かな面々が今を気ままに生きている様子を描いたこの作品は、他の伊坂作品とは異なった魅力を見せている。何か大きな事件が起こるわけでもなく、無意味に時間を過ごしている学生たちがポップな文体で飄々と語られていく。「なんてことは、まるでない」というフレーズが多用され、ある種のシリアスな状況から主人公たちは身をかわしていく。読者を突き放すようなこの言葉であるが、使われる度に、読者を呆れさせ、安堵させ、驚喜させと、色を変えていき、すっかりこの軽妙な語り口に読者は操られてしまっている。

 そのように語られる小説であるが、その中にも西嶋という普通ではない熱量と率直さを持った人物が出てくる。この男は『星の王子様』で知られるサン=テグジュペリに影響されており、サン=テグジュペリが砂漠のなかで経験したことを書き綴った『人間の土地』という随筆集にある言葉を引用して語る。その一つが「彼方で人々が難破している時に、手をこまねいてはいられない。」という言葉であり、この言葉や考えは作品中において何度か現れることになる。

 この言葉の通りまさに西嶋は、「手をこまねいていられない」のであり、すぐに行動へと移していく。主人公の北村は冷めている鳥瞰型の人間であったが西嶋に影響を受け、少しずつ変わっていく。社会という「砂漠」から目を背けるようにして、モラトリアムの大学生活という「オアシス」のなかを彼らは生きているが、西嶋は「俺たちがその気になれば、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」と言いきってみせる。

 社会という「砂漠」にでるまでの長くて短いあっという間の四年間を描いたこの作品は学生にこそ読まれるべきだ。「人間にとって最大の贅沢とは、人間関係における贅沢のことである」という言葉がこれまた『人間の土地』から引用されているのだが、学生生活において人間関係ほど大事なものはないのかもしれない。この贅沢さえあれば、目の前に広がる「砂漠」にさえも「雪」を降らせることができるのだろう。


砂漠砂漠
(2005/12/10)
伊坂 幸太郎

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【レビュー】 『悪い仲間』 安岡章太郎


 大学予科に進学して最初の夏、「僕」が、悪友・藤井高麗彦に出会う。「僕」は窃盗などを日常的に行う藤井の姿に、憧れるようになり、「僕」もまた藤井の行為を模倣するようになっていく。そして「僕」のもともとの友人であった倉田を加えた三人の「遊び」は段々とエスカレートしてく。

 「僕」も倉田も藤井に対して異様なまでの執着心を抱いており、二人は藤井に認められようと悪事を競い合うようになる。藤井もまた、二人よりも「悪い」存在でなければならないと、より大きな悪事を行おうとする。このようなエスカレートしていく構造はなかなか自ら止まることができずに、チキンレースのようにして破滅へと向かっていってしまう。

 しかし、藤井が病に冒されたことによって、事態は変化する。「僕」は恐怖心のために三人の輪から離れようと決意し、街で藤井と倉田を見かけるも合流せずに身を隠した。そして、街へと消えていく二人の姿を背に、「僕」はそこから逃げ出した。「僕」のなかにあったのは卑しさや羞恥ではなく、ひたすら恐怖であった。

 この恐怖は藤井の病によって顕在化するのだが、三人の青年の中でエスカレートして言った「悪」がいずれ破滅をもたらすということが、藤井がいなくなることで三人のこの構造もまた終わりを迎えることが、わかってしまったからだろう。

 この『悪い仲間』において描かれる構造は、日本が太平洋戦争へと突き進んでしまったことを暗に表しているのだろう。そこにある恐怖に気付かなければならないのに、虚栄を張り続けた結果、もう止まることができず、破滅へと向かってしまった。この作品が書かれた後の現在でも、これと同様のことが起きている。ひとつ例をあげて言えば今問題になっているいじめなどもそうだろう。より酷い仕打ちをと、いじめがエスカレートしていき、その当事者はその先にある悲惨な結末を知ろうとすらしない。

 これは何も悪事やいじめに限った話では決してない。この「悪い仲間」をとりまく構造は、いたるところに存在しているのであり、その先にある恐怖を、「僕たち」は見つめなければならないのだろう。


ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)ガラスの靴・悪い仲間 (講談社文芸文庫)
(1989/08/03)
安岡 章太郎

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Author:法政文芸編集委員会
法政大学国文学会が発行する文芸誌「法政文芸」編集委員によるブログ。編集の様子やオススメ本の紹介など、個性豊かに発信していきます。法政文芸のバックナンバー、その他のご質問はこちらまで→hosei.bungei@gmail.com

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