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【レビュー】 『チョコレートコスモス』 恩田陸


 ベテランの脚本家、神谷は、ある大きな仕事を前に行き詰っているとき、ふと、事務所の窓からある奇妙な少女を目撃する。芸能一家に生まれ、幼いときから役者の道を駆け上がり、若くしてスター女優となった響子。しかし彼女は、ある迷いを抱えていた。このまま、女優を続けていいのかと。大学生の巽は、立ち上げたばかりの学生劇団に所属する、脚本家志望の劇団員。彼は劇団での練習の最中に、「この劇団に入れてくれないか」と声をかける少女と出会う。そしてもう一人、佐々木飛鳥は、あることをきっかけに、自分でもわからない『何か』を知るために、演劇にのめりこんでいく。

 年齢も性別も、立場さえも違う彼らが、『演劇』というただ一つの共通点をもって語られ、やがて一つに収束してく。この小説は、四人の男女の視点を通して描かれる群像劇である。

 テーマが演劇であるためか、どの人物の視点でも自分の周囲を、あるいは自分自身でさえも観察するように描かれているのが面白い。脚本家とその志望者である神谷と巽はその傾向が特に顕著だ。役者である響子はその一方で時に感情豊かに描かれている。そして、飛鳥の描写に至っては、彼女自身を観察しているような、そんな錯覚を覚える。そうしていくつもの『観察』という窓を通していくことで、読者自身がこの小説という『演劇』の観客になることができるのだ。

 最終的に、神谷と響子それぞれが感じている閉塞感を飛鳥が打ち破り、彼らと飛鳥の三人は、飛鳥が探していた『何か』、演劇の持つ可能性の一端を見ることになる。その果ての見えない深淵を、この小説の中では『小宇宙』と表している。時空を超えたありとあらゆる世界を創り出す劇場と、その世界を表現する役者たちをそう表しているのだ。これはそのまま、未来への可能性を示しているようではないだろうか。何ものにでもなることができる、不確かで、あやふやな、不安を呼び起こすもの。悩んだり行き詰ったり、立ち止まったりしながらも進んでいくうちに見えてくる可能性。そういったものではないだろうか。最後に巽だけがその行く先も示されずに話が終ったのは、飛鳥たち三人と比べて巽が劣った立ち位置にいるからではなく、他の三人が見つけ、可能性を定めたのとは違い、彼だけがまだ固まらない、混沌とした未来を持っているということではないだろうか。


 「行っちまった。」


 巽が飛鳥に感じた淋しさは、自分の手の届かない高みに行く彼女へのものだった。しかし、彼の中にもあるのだ。そしてもちろん、この小説を読んだ自分たちの中にもきっとある。何にでもなれる、何ものをも創り出せる宇宙、可能性が。この小説を読んだ後、もう一度自分自身を見直してみるのいいかもしれない。そう思わせてくれる話だ。(文責:安田)


チョコレートコスモス (角川文庫)チョコレートコスモス (角川文庫)
(2011/06/23)
恩田 陸

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法政大学国文学会が発行する文芸誌「法政文芸」編集委員によるブログ。編集の様子やオススメ本の紹介など、個性豊かに発信していきます。法政文芸のバックナンバー、その他のご質問はこちらまで→hosei.bungei@gmail.com

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