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【レビュー】『You can keep it.』綿矢りさ

お初にお目にかかります。
学生編集委員2年、S・Nです。

あまりブログを書くのは得意でないので、先延ばし先延ばしにしていたら、
とうとう編集長から催促メールをもらう事態に発展しました(汗)
名前だけに、先延ばしが得意です。
先延ばししたまま忘れることもあります。
そんなこんなで二十歳になってしまってびっくりです。
きっと私の人生には先延ばしにしたまま忘れてきたことがいっぱいです。
そんな先延ばしにいつかしっぺ返しを食らいそうで怯えた毎日を送っています。

嘘です。どうでもいい嘘です。

……うん、ホントどうでもいいですね。
でもきっとどうでもいいことが世界を回す原動力になってると思います。


10%くらい。
……や、5%くらい。


うん、ほんとどうでもいいな。



さて。
だいぶ前の編集長の記事でも告知のあった通り、法政文芸第六号のテーマは「平成」
というわけで、私も忘れっぽい、ちょっとシワの少ない脳みそをフル稼働して、
作品を熟読し、レビューを書いていきたいと思います。


今回の私のレビュー作は、こちら。

インストール (河出文庫)インストール (河出文庫)
(2005/10/05)
綿矢 りさ

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綿矢りさ さんの『インストール』(文庫版)に収められた書き下ろし短編作品、
『You can keep it.』です。


前作と前々作、『インストール』『蹴りたい背中』が女子高生が主人公であったのに対し、
本作の主人公・城島は男子大学生。

特徴は、「やたら物をくれること」。

彼は、誰かに羨ましがられたり、ほめられたり、欲しがられたものを、
「あげるよ」と、いとも簡単に手放してしまいます。

それは、気の弱い親切ボーイの親愛の情を示す精一杯の手段。
と、いうわけではなく、賢いというべきなのか、賢しいというべきなのか。
そんな彼の編み出した歪んだ策略なのです。


「物を撒くと人の心には芽が出るんだ――喜びと警戒で頭を重くした芽がね、
それでその双葉の鉢を抱えて人は俺としゃべるわけだけど、両手のふさがった
奴なんかに俺が負けるわけないのさ」



モノをバラまくことで、コミュニティにおける自分の立場を確立しようとする彼の姿に、
私は小学生の頃に読んだ、芥川龍之介『杜子春』を思い出しました。

父が「感動した」と言った『杜子春』は、私にとってはあまり好きな作品ではありませんでした。
愚かな杜子春――彼が峨眉山で見た幻に、思わず「お母さん!」と叫んでしまったことは、
作中に出てくる彼の唯一の長所で、その人間的な優しさを見込んで、
ハナから仙人になんてする気は無いくせに、
「仙人にしてやろう」と言うスタンスの仙人が、
この上なく残酷な人非人のように当時の私には感じられたからでした。

財力に頼って、友達を集める為に家で日々どんちゃん騒ぎを開催する杜子春の気持ちは、
どんな手段を選んだとしても、友達が欲しくて欲しくてたまらなかった
当時の私への痛烈な風刺でもあり、私は自分と杜子春を重ねて
くやし涙を流しそうになるくらい仙人が憎たらしくて仕方ありませんでした。

「何かを目当てに集まってくる友達は本当の友達ではないとは分かっていても、
それでも友達がほしい、という気持ちが間違っていることは分かっていても、
それを殊更に『愚かだ』『間違っている』と言われる筋合いはない。
そんなこと、もうとっくに分かっているのに」

もちろん、杜子春の場合「もうとっくに分かって」いた訳ではないのだから、
私の杜子春の読み方は曲解も曲解、捻じ曲げ過ぎも良いところだとは思うのですが、
私は、この『You can keep it.』にも、杜子春を読んだ時と同じ、
苛立ちというか、疑問というか、腑に落ちない気持ちにさせられます。


その苛立ちの元がなんであるのか。
杜子春とは違い、計略的にモノをバラまく城島に苛立つのか。
ハゲタカのようにモノを奪って行って友達面をする、
保志をはじめとする友人群にイライラするのか。


私が気に入らなかったのは、城島の想い人、沢 綾香でした。


太陽の申し子のような明るさを持った少女・綾香。
前作『蹴りたい背中』の絹代のように、
彼女は作中に「憧れ」として君臨しています。

城島とは、まったく違ったタイプの綾香。
城島の友達との付き合い方が歪んでいるのであれば、
彼女の人との向き合い方は真っ直ぐ過ぎるくらい真っ直ぐです。
けれどもそこには城島以上の不自然さが生じているように思います。


綾香との距離を縮めようと、
インド旅行のお土産だと嘘をついて渡したポストカードは、
綾香に簡単に嘘だと見破られて、逆に不信感を抱かれる結果となります。

そこまではいいと思います。
そこまでは現実です。

けれども、城島と仲間たちが、
「綾香とインドに行く計画」を立てたところから、
舞台は峨眉山の幻になった気がします。

綾香は、誘われた城島たちのとインド旅行計画にOKを出します。
そして城島の頭の中には、インドで綾香に問い詰められている映像が浮かびます。


“どうして嘘をつくの?”


彼女は本当に、インドで彼を問い詰めるでしょうか。

私には分かりません。

けれども、「どうして嘘をつくの?」というセリフは、
杜子春に「何になつても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです。」という
セリフを吐かせた、仙人・鉄冠子のあの言葉を私に蘇らせるのです。


「もしお前が黙つてゐたら、おれは即座にお前の命を絶つてしまはうと思つてゐたのだ。
――お前はもう仙人になりたいといふ望も持つてゐまい。大金持になることは、元より
愛想がつきた筈だ。ではお前はこれから後、何になつたら好いと思ふな。」




分かったように、偽善に満ちて。
世界というのは、それほどまでに綺麗な場所なのでしょうか。
世界というのは、それほどまでに汚れた場所なのでしょうか。


――少なくとも、私の心はまっくろなようです(笑)


この作品の、「どうして嘘をつくの?」ということばは、
すべての読者に向けられる問いかけだと思います。

自分は、どうして嘘をついて生きているのか。
素直に心に響いた人には、きっと素晴らしい出会いが待っていると思います。

テーマ : 書評
ジャンル : 小説・文学

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