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【レビュー】 『伊豆の踊子』 川端康成


「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、雨脚が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで私を追って来た――」
二十歳、旧制第一高等学校の学生である「私」は、自分の性質が孤児根性のために歪んでいるという意識に苛まれ、逃れるように訪ね来た伊豆で出会った年若い踊子に好意を抱き、その巡業芸人の一団と目的地である下田までの旅路をともにする。

 当初私は髪の豊かさと大人びた化粧のために踊子が十七八の娘盛りであると思い込み、そのために酒宴に呼ばれた踊子の身を案じ胸を痛めもするが、湯に出た際、川むこうの湯殿から私を見付けてはしゃぐ踊子の「若桐のよう」な裸体に幼さを見て取ると、晴々しい気持ちに思わず笑いがこぼれる、というくだりがある。

「川端氏の全作品の重要な主題である『処女の主題』がここに端緒の姿をあらわす」という三島由紀夫の言及の通り、作家の早い時期の作品でありながら後の方向性を既に孕んでおり、才能の萌芽のようなものが見うけられる。

 秋の伊豆を舞台に踊子たちと交流するうち私の心はしだいに和らぎを得てゆく。帰京する汽船の中、私は頭の中が空になったような、また全てが調和したような清々しい心持でしきりに涙を流し、甘い快さを感じるのであった。

『伊豆の踊子』は自身が十九歳で実際に伊豆を旅行した経験を元手に、一九二六年(昭和元年)作者二十七歳の時書き上げられた、川端康成初期の代表作であるとともに、近代日本の青春文学作品として代表的な一品である。
 
幾度も映画化され、広く人口に膾炙したこの作品であるが、ここまで今なお多くの読者に青春の書として親しまれているのは、作品に扱われる自意識の苦しみや恋愛の問題といった、多くの人が思い悩む青春時代においてもっとも大きな比重を占める事柄が、作者の優れた筆致も相俟って、いつの時代も読者の強い共感を誘うためであろう。

 やや上った時代の作品ではあるが、平易な書き様で読みやすく、細やかでありながら限定しすぎないという描写から、自分にとって美しい踊子の姿を思い浮かべる楽しみがあった。短い話ですぐ読み切ることができるので、未読者、また川端作品に触れたことがない読者には是非一読して欲しい。


伊豆の踊子 (新潮文庫)伊豆の踊子 (新潮文庫)
(2003/05)
川端 康成

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