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【レビュー】 『正義のミカタ』 本多孝好

―この春、僕は夢から醒めたのだ。さなぎから蝶になったのだ。さあ、美しい羽を存分に広げよう。

 幼い子どもは、しばしばヒーローに憧れます。強くて、格好良くて、優しくて、そしてなにより、“悪”という“間違っていること”を徹底的に負かしてしまう、「正義の味方」。それは穢れを知らない小さな瞳にキラキラと輝いて映ります。

 しかし、幼い頃憧れたヒーローの輝きを大人になっても変わらず心に持ち続けることができる人は、と考えると、その数は明らかに減ってしまうのではないでしょうか。成長するにしたがって、私たちは様々な場面に立たされます。いい事ばかりではありません。怒りを感じる事も、悔しさに唇を噛み締める事も、理不尽だと叫びたくなる事もあるでしょう。そしてそんな中で、自身も楽や狡さなどを覚え、憧れた純粋な「正義」からは遠ざかってしまうことがほとんどです。

 そもそも「正義」とは何なのでしょう?「正義」とかこつければ、何をしてもいいわけではありません。「正義」だと思い込んでいる事は本当に「正義」なのでしょうか?一方の側からは「正義」でも、もう一方の側から見ればそうではない事も多々あります。何が「正義」で何が“悪”か。それとも真の「正義」なんてモノも、真の“悪”なんてモノも存在しないのか。答えを簡単に出す事はできません。

 この本の主人公の亮太も、そんな「正義」の狭間で揺れ動きます。
 彼は高校時代、「本当にすごいいじめられっ子」でした。殴る蹴るの暴行を受け、金を巻き上げられる毎日の中で彼は自分を「さなぎ」だと思い、「蝶」として華々しくデビューするために必死の努力で大学に入ります。そして念願の大学で、ボクシングでインターハイ3連覇をした「トモイチ」と出会い、「正義の味方研究部」の一員となるのです。
 皆が平穏な大学生活を送れるように「正義の味方研究部」として活動する中で、良くも悪くもただ従順で単純なお人好しだった彼は“考え”始めます。

―世界は悲鳴に満ちていた。その悲鳴の一つ一つに耳を澄ましてみれば、彼らの言っていることはただ一つだった。
「不公平だ」
僕は口に出して言ってみた。

それは、リストラや格差、貧困に溢れる社会から

―このままじゃいけない。このままじゃいけない。このままじゃいけない。どのままじゃいけないんだ?

自分自身のあり方、そして「正義」へと。

 この話はとても意外なラストを迎えます。亮太の選んだ道、この本の終わり方をどう捉えるかは人によって様々でしょう。しかしどう感じたとしても、読後どっぷりと考えの“深み”に嵌ってしまう事は確かです。そしてそれは自分自身を見つめなおすきっかけにもなり得ます。

“繊細”なテーマをけして“重く”せず、将来の不安に揺れる青春期の大学生に乗せて描く。この本の構成はとても“面白”く、そこから『眠りの海』で第16回小説推理新人賞を受賞、その他にも作品が多くの賞の受賞候補にノミネートされてきた本多孝好の実力を十分に見ることができるでしょう。


正義のミカタ (集英社文庫)正義のミカタ (集英社文庫)
(2010/06/25)
本多 孝好

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法政大学国文学会が発行する文芸誌「法政文芸」編集委員によるブログ。編集の様子やオススメ本の紹介など、個性豊かに発信していきます。法政文芸のバックナンバー、その他のご質問はこちらまで→hosei.bungei@gmail.com

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